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「ながら勉強」の研究 大阪観光大・宮原道子准教授


大学教員になろうと思ったきっかけ

大学教員になるまでの道のりには、振り返ってみると3つのターニングポイントがありました。1つ目は心理学との出会い、2つ目はカウンセラーを目指すことに挫折、3つ目は研究テーマの変更と指導教員の交代です。

 

1つ目の心理学との出会いは、高校1年生の時に偶然読んだ小説です。この本をきっかけに、臨床心理学に興味を持ちました。予備校にカウンセラーの先生が常駐していらしたので、いろいろと話を伺うことができ、教育学部で心理学を学ぶことにしました。

 

2つ目のカウンセラー志望の挫折は、大学2年生の秋です。大学では、この時期に臨床心理学系に進むか、それ以外の実験系心理学に進むかを選択することになっていました。迷っていましたが、尊敬する先輩から「カウンセラーは片方の目でクライエント(相談者)のために涙を流しながら、もう片方の目で相手を冷静に見ていなくてはいけない」という言葉を聞きました。それは私にはできないと感じたので、カウンセラー志望をあきらめて、実験系心理学を選びました。

 

3つ目の研究テーマの変更と指導教員の交代は、大学院の博士課程に進んだときです。修士論文で行き詰った私は、研究を続ける将来が見えず、公務員試験を受験したりしました。しかし、公務員試験に落ち、そこで、ようやく自分のやりたいことをやろうと開き直りました。2.で述べる新しい研究テーマにたどり着いて、大学院生を続けることとなりました。博士課程に入ったタイミングで、指導教員が代わられたのも大きかったと思います。

 

 

 この3つ目のターニングポイントの後は、ばりばり研究に励んだかというと、そんなことはなく、やっぱり向いていないと、じくじくと悩む日々でした。それでも恐る恐るではありますが、少しずつ前に進んできたことと、研究することをどうしても諦めきれなかったこと、指導教員の先生をはじめとする先生方、研究室の同期、先輩、後輩、家族、友人、たくさんの人との出会いと支えがあって、今の私につながっています。

 

 

現在の研究分野について

 現在の研究テーマは3つあります。1でも述べた大学院博士課程から新しく始めた研究テーマである「ながら勉強」の研究、大阪観光大学に着任後に始めた教職課程履修生の心理の研究と、観光に関する心理の研究です。

 

 1つ目の「ながら勉強」の研究については、注意と記憶という心のしくみの観点から研究をしています。私たちは耳をふさがない限り、いろいろな声や音が聞こえる環境で、本を読んだりレポートを書いたりといった高次な心の働きをこなしています。どうしてこのような複雑なことができるのか、といった興味から、日常的な場面である「ながら勉強」の研究にとりくんでいます。「ながら勉強」を可能にする心のしくみはどうなっているのか、「ながら勉強」ができる人とできない人はどんな違いがあるのか、「ながら勉強」に向いた音と勉強内容の組み合わせと、その逆に向かない組み合わせは何が違うのか、など知りたいことはたくさんあります。

 

 2つ目の教職科目履修生の心理の研究では、教職科目履修生が持つ将来展望やアイデンティティ、就職に対する意識などについて調べています。アンケート調査の分析結果から、教職科目履修生の内面や特徴に迫りたいと考えています。大阪観光大学には、教育学部・学科はありません。観光学部で観光について学びながら、教員免許の取得に必要な科目も並行して履修するしくみになっています。このような教職課程制度を開放性の教職課程といいます。この開放制の教職課程を履修する学生の心理学的特徴を明らかにし、学生の実情に寄り添った指導に活かしていきたいという気持ちから始めた研究テーマです。

 

 

 3つ目の観光に関する心理の研究は、今一番力を入れているテーマです。観光することには、心の働きが大きく関わります。観光したいという気持ちがあっても、お金や時間といった条件が整わないと、観光は実行されません。観光中に感動するのも、観光後に思い出に浸るのも、心の働きです。逆に観光を提供する立場の人には、おもてなしの気持ちといった心の働きが必要です。このような心の働きと観光について、いうならば心理学が実生活で応用されている場面としての観光について研究していきたいと考えています。

 

 

 

大阪観光大学について

 勤務先である大阪観光大学は、観光学部と国際交流学部の2学部があります。1学年当たりの人数は両学部あわせて200人ほどのこぢんまりとした大学です。

特徴は、アットホームな雰囲気の大学ということ、多様な文化的背景を持つ学生が集まっているということ、最先端の観光学研究と観光学教育をめざしているということの3つです。

 

1つ目のアットホームな雰囲気とは、小規模大学であるために、教職員と学生の距離が近いということです。そして、学生の夢や希望を全力でサポートしようと考える教職員がたくさんいます。大阪観光大学のホームページには、「大阪観光大学中期計画2021-2026 (初版)」と、その具体的行動目標である「大阪観光大学 9つの約束」が載っています。特に、「9つの約束」をご覧になっていただければ、大阪観光大学がどのような学生を育てていこうとしているのか、そのためにどのように学生と関わっていこうとしているのかが、よくわかっていただけると思います(コラム末尾にURL掲載)。

 

2つ目の多様な背景を持つ学生とは、留学生が多く、しかも日本人学生と一緒に授業を受けているということです。日本人より留学生の方が多い学年もあり、学内では様々な言語が飛び交っています。このような環境に身を置くことで、日常的に異文化コミュニケーションを経験することが可能となります。

 

 

 3つ目の最先端の観光学研究と観光学教育をめざしているとは、観光について広く深く研究するとともに、研究成果を学生教育に還元していこうとするものです。大阪観光大学には、優秀な教員がそろっています。そして、観光に関する理論や実務に通じる知識だけではなく、観光とつながる様々な学問分野、たとえば歴史学や人類学、宗教学、芸術学などを幅広く学ぶことができます。将来観光業に携わりたいと思う人にはもちろん、人と関わる仕事に就きたい、おもてなしを学びたいという人にとっても、得るものの多い大学です。

 

 

 

今後の課題

 「ながら勉強」の研究では、他者の話し声が、読書や作文といった複雑な認知活動に及ぼす影響に一番興味を持っています。音楽ではなく、声そのものが持つ魅力や影響力を何とかしてとらえられないかと考えています。教職課程履修生の研究では、青年期の課題であるアイデンティティの確立という観点から、もっと調査を進めていきたいと考えています。観光の心理の研究では、3でもふれたように、大阪観光大学には観光の専門家の先生がたくさんいらっしゃいます。その先生方と、共同研究として、一人では思いつかないような面白い研究ができないかと考えています。

 

 

現在はコロナ禍で大学の授業がオンライン中心となっているため、なかなか対面でデータを取ることができません。その代わりにオンラインでデータを取る工夫をしたり、新しいデータ分析方法を勉強したり、文献を読んで考えたりする良い機会だととらえるようにしています。


大阪観光大学  https://www.tourism.ac.jp/