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【社説】衛藤晟一前沖縄担当相「沖縄と部落の貧困は似ている」発言。貧困問題の直接的表現への嫌悪感がまた浮彫に。

※このコラムはActilearn編集部による社説文章です。

 自民党衛藤晟一前沖縄担当相が、沖縄の子どもの貧困問題を被差別部落問題と「似たところがある」と発言したことに波紋が広がっています。衛藤氏は「同和地区では良い学校に行けず良いところに就職できないなど、貧困の連鎖がある」と主張。こうした貧困の連鎖は、ひとり親世帯が多く進学率が低い沖縄の子の置かれた状況と類似していると考えているのです。

 これに対し沖縄県内のメディアは敏感に反応。沖縄タイムズは「[衛藤氏『貧困』発言]事例の比較が不適切だ」という題目の社説を発表、波紋が広がっています。

 

 沖縄タイムズの言い分としては、被部落差別の由来は明治中期に家業が没落する事によって、その後の家制度浸透によって出生地を重視するようになった差別であり、沖縄の貧困は太平洋戦争とその後の米軍占領で、主要産業が安定的な生産物から浮き沈みの激しい観光に変化した事が結果で非正規雇用の広がりが原因あり、その根本が違うのだと言います。

 

 ようは原因も何もかもが違うものを安易に一緒にしてくれるなということです。

家族・環境の貧困としては変わりない

 歴史認識は確かに違うのかもしれませんが、今回比較された双方に関しては確かに類似点が多いのです。

 まず家族(親)の貧困。出生地の都合で雇用に差別があるという被部落差別も沖縄の現状も、どちらも非正規雇用の割合が高い事が多いのです。

 それに連鎖するのが教育の不足。都会であれば私立高校や大学への進学が金銭的に叶わず、沖縄ではそもそも優秀な私立高校や大学が数えるほどしかなく、県外(内地)への進学には金銭的に叶わなくなってしまいます。

 また親の教育が十分でないと、その子どもへの教育関心が下がり大学進学率が下がることが知られており、その心理的思考を変化させるのはとても難しい話なのです。

 

 結局は双方ともに親の正規雇用率の低さや進学率の低さが関与しているという事に変わりはないのです。

沖縄の基地問題と絡めてはいけない

 では沖縄の新聞社の意見を真っ向から否定するというわけではない。衛藤氏は「(沖縄は)革新系も新聞も基地問題ばっかりだ」と主張しており、これはこれで間違っているとも考えている。

 沖縄は各自治体に基地担当者を配置するなど、騒音や基地イベントへの調整を行う部署が必要とされており。日本の全米軍基地の7割が集中している環境で基地問題を積極的に取り上げないわけにはいかないであろう。

 

 あくまで米軍基地と沖縄の経済は分離しており、過去の影響があるとはいえ貧困問題と基地問題を絡めて発言した衛藤氏は本質の理解が足りてないのではないかという疑念を持たざるを得ない。もちろん政治家として、担当大臣としての一定の知識はあるのかもしれないが。

国の貧困に対する抜本的対策が必要

 いずれの理由にせよ、非正規雇用の増加による貧困連鎖の問題は今に始まったことではない。非正規雇用が悪い事であるとは言わないが、それにより先進国の日本において先天的な貧困があってはならないと考える。

 より抜本的な解決が必要であり、これは衛藤氏も「目をそらさず本気でやれば(解消)できる」と発言している。

貧困問題への敏感性はまだまだ高い

 貧困問題の最大の問題は、それを解決しようとする人間が自身の貧困は他と違うといった固有性を主張しているにも関わらず、それに言及すると批判に回ってしまうということである。

 貧困で悩む方を差別したり卑下したりする行為は間違っているのだが、その解決のための積極的な行動や発言は差別的だ、理解していない、などと捉えられがちであるのではないか。

 これは固有性を主張している人間が自身の解決を待ち望み、他の人間のことが全く見えていないという現実を示しているのではないだろうか。

 

 固有性を発揮していようが、あくまで日本人のごく一部に過ぎずそれをいちいち詳しく対応できるような人口ではない日本において、現状の類似性をもって区別し総合的に対処していこうとする姿勢は実に現実的であると思うし、これが最善の手段であるのだが、これが当事者に届く日は来るのだろうか。