※このコラムは2019年12月25日に公開されたコラムを再編集の上掲載したものです。
”猫の島”佐柳島の基本情報
佐柳島は人口100人以下の瀬戸内海に浮かぶ小さな島です。
人口より猫の方が多いと言われ、「猫の島」と呼ばれています。
島へは1日4本と限られた便数のフェリーが香川県多度津港とを結んでいます。所要時間は約1時間です。高松など都心部への通勤通学は困難ですし、遊びや買い物に出る事は1日を費やすことになります。
このように交通便も決して良くない佐柳島ですが、写真家・五十嵐健太さんの写真集「飛び猫」で脚光を浴びる事となります。
防波堤の隙間を猫が飛び越える瞬間をとらえた写真を「飛び猫」と名付け、写真集の表紙に佐柳島の写真が採用されて出版されると、毎日のように観光客が訪れることとなりました。
まるで猫が宙を飛んでいるように見える「飛び猫」の写真が佐柳島の知名度を爆発的に上昇させたのです。2015年の出版から5年程度経ちますが、その影響は今でも続いています。
観光資源があるのに観光地化をしない。その理由は?
佐柳島の猫は十分な観光資源と言えるでしょう。
しかし佐柳島への道のりに土産店や佐柳島の観光案内などは一切ありませんでした。
観光客が一定数訪れているのに観光地として商店などを作らない事はとても勿体なく思えてしまいます。
何故観光地化をしないのか。この理由を多度津町の観光協会に問い合わせてみました。
まず、多度津町行政および多度津町観光協会といたしましては、島民の生活を一番と考え、猫を単なる観光素材としてとらえるのではなく、島民からの意見を聞きながら共存を図る方法を模索し、来島される方々へマナー啓発を行い、島民と来島者がお互い気持ちよく挨拶を交わせる環境を目指しており、佐柳島の猫を積極的に観光へ活用する施策は取っておりません。
佐柳島の猫については、現在島に住まわれている方から、数十年以上前から、飼い主のいない猫が数多く住み着いているとお聞きしております。瀬戸内の島々で見られる、「猫島」として一般的な環境であったと思われます。
島民の生活が第一のため、というのは当たり前のことです。
それだけではなく猫島の環境は瀬戸内海の島としては「一般的な環境」で、決して佐柳島だけ猫がいるわけではありません。瀬戸内海では佐柳島以外にも女木島や真鍋島など、多数の猫が住み着く島が存在しています。
島民の生活は第一ですが、フェリーの港で関連商品を販売する、カフェを積極的に誘致するなどしても良いのでは?とも思うのは筆者だけでしょうか? 猫の島にあるカフェで猫関連のドリンクなどあれば爆発的な売り上げが期待できそうですよね。
地域の暮らしを守るためにあえて手を加えない。は正しい判断なのか?
ここで仮説を立てるとするならば、「佐柳島の来島者のマナーが最悪説」が挙げられるでしょう。ごみを道ばたに捨てたり、騒いだり…
答えから言えばそれは違います。
来島される方は何よりも猫を第一に考えて行動されているように思えます。もし猫がもしビニールを食べたら、などと考えゴミをポイ捨てするようなことはありません。
また、来島者のほとんどが猫の撮影が目的ですので、うるさくすれば猫が遠のいてしまい、来島の目的が果たせなくなってしまうのです。
しかしいくらマナーが良くても人が多くいれば街は汚くなってしまいますから、ゴミが海辺に放置されていることもしばしばあります。これは多くの人が訪れる場所にとって仕方のないことと言えるでしょう。
画像はゴミが散乱する佐柳島の本浦港付近。
海からの漂流物か佐柳島から出たゴミかは不明ですが、この程度であれば人が多くいる所では仕方ない光景かもしれません。
「地域」か「観光地」か。それを左右するのは地域住民の英断
現代日本の都市部以外の地域は過疎化の問題に直面しています。
佐柳島も例外ではなく人口は減少の一途をたどっています
。地域おこし協力隊などの活動もありますがいまいちパッとしないのが現状でしょう。佐柳島では隊員の活動により「ネコノシマホステル」という宿泊施設も誕生し、佐柳島の夜にも観光客が訪れるようになりました。
しかし観光名所である神社などはイノシシ出没の影響で参道を閉鎖している状態で、長時間の滞在の意義が薄れています。これは過疎化や高齢化により山へ入る人が少なくなったために人の通るところにまでイノシシが出てきているからで、一年以上神社は放置されており現在の様子はわからなくなっています。
佐柳島は一般的な「田舎」と特殊的な「観光地」が混在しているように思えました。一般的な「観光地」としては整備が不十分ですが、「田舎」としては来訪者が多い、といった感覚です。
佐柳島民や行政としては佐柳島を「ただの離島の一つ」と捉えているようで、そう捉えてしまうと人の多さによる弊害がまるでマナー知識の不足に思えてしまうでしょう。
来訪者としては観光地と考えて島へと向かうので、整備の不十分さに困惑してしまいます。
これは佐柳島に限らない問題です。自分たちが持つ観光資源を鑑みて、自分たちの街を観光地とするか、ただの田舎とするか。
観光地化を目指しても資源がいまいちだと違和感を覚えますし、資源が豊富なのにも関わらず田舎として未整備のまま放置しても観光客は違和感を覚えます。どちらにしろ最大限の来訪者数は見込めません。
ここで間違えてはいけないのが、観光地化は地域社会の崩壊を招くなど「いままで」を無くす事ではないということです。
「観光地化」は街を整備するという事とほぼ同義で、例えば飲食店舗の誘致、観光客向けの情報を集約した施設の整備、土産などの販売が挙げられます。たしかに観光地として本来の魅力を誇張しているところもありますが、それは本来の観光地化とは言えません。
地方活性とこれから
今後、地方活性の取り組みはさらに増加していきます。佐柳島も例外ではなくその恩恵を受ける事になるでしょう。
観光地として集客を望めば多くの収益を見込めます。
今後は地域の在り方と、集客に関するバランスとを考える機会がどんどん増えていくことが予想されます。
どのように変化していくのかを判断し、繁栄衰退を左右するのは、地域住民の判断によるのです。
佐柳島:香川県仲多度郡多度津町
コラム作成に関して、多度津町観光協会様に質問を行った他、自身も取材に行って執筆しています。
名称「飛び猫」は五十嵐健太さんの登録商標です。
写真撮影:矢葺琉斗